風景の交響楽

静岡の調べ

静岡出身の作家たち、静岡を愛した作家たち

静岡に生まれ、その風土を底流として個性を伸ばした作家、静岡の自然と文化に魅せられて往来・居住した作家など、当県ゆかりの人々の作品をご紹介していく。静岡が育んできた豊かな美術世界を、楽しんでいただきたい。
パート後半では、静岡の美術動向として次の3つを特集した。(1)江戸後期の遠州地方における渡辺崋山の門人たち—福田半香、平井顕斎ら—の活躍。(2)山口源や中川雄太郎らによる創作版画運動。(3)静岡と清水を拠点に生まれた戦後前衛芸術運動、グループ「幻触」。
県内の美術文化を検証し、その動向を確認していくことは、県立美術館の大切な役割である。今後もさらなる充実を図っていきたい。

近代女性の健やかな息吹 中村岳陵 《婉膩水韻》

清流にひとり泳ぐ黒髪の若い女性。まっすぐ腕を伸ばし水を切る姿は、溌剌とした美しさにあふれている。リズミカルな水の韻きを表す波紋の描写、流れる花や岸辺の衣の色彩的なアクセントも、明るさと健やかさを感じさせる。近代的で清潔な裸婦像が新鮮な、岳陵初期の優品。

空を得意とした岳陵、本領発揮の一作 中村岳陵 《残照》

茜色の諧調の美しさと、浮かび上がるケヤキの力強さの対比が鮮烈。迫る夕闇や金色に輝く雲などの細やかな表現にも注目したい。目の前に広がる風景の一瞬の美を凝縮させただけでなく、そこを突き抜けた一種抽象的ともいえる普遍的な美しさを感じさせる。

大自然の壮大絶妙の美しさ 中村岳陵 《磯》

湘南・荒磯海岸に取材。秋の夕暮れ時、雄々しく連なる岩礁と水平線上に広がる美しい夕空を目にして「大自然の壮大絶妙の浄土変に感歎久うした」という光景を描く。銀泥を施された夕空は彩雲を浮かべて鈍く輝き、穏やかな中に荘厳さを宿す。海上を飛ぶ鳥が効いている。

大阪万博出品作 沖六鵬 《進》

皮に託した古代幻想 大久保婦久子 《登呂の譜》

勾玉や縄文などを想起させる大小のモティーフを皮特有の平面の世界に組み入れ、幾何学的な画面に独特の音楽性をかもし出す。力強い生命感があふれている。

ダイナミックな構図の中に生命への慈愛 秋野不矩 《廻廊》

ぎらつく陽射しが金箔の輝きに託され、対照的に強調される影の濃さとの対比が画面に律動感と奥行きを生む。遠近を強調した大胆な構図をまとめあげる構成力は見事。陽射しの強烈さを描きつつ、時が止まってしまったかのような森閑とした空気をも表現し得る、底深い力量が示された不矩の代表作。

氾濫する聖河と相対する画家の気迫 秋野不矩 《ガンガー(ガンジス河)》

黄土色の濁流で全面を覆い、銀の雨足を伴う黒雲や川面に映る雲影を添え、その壮観をあますところなく表現する。聖河への畏敬の念が、色彩の強さと大画面の迫力によって直裁に語られ、秋野らしい気分の大きな作品に仕上がった。跳ねるイルカの姿が愛おしい。

「私は彼らが好きだ。」(秋野不矩) 秋野不矩 《たむろするクーリー》

インドを汽車旅行中に駅のホームで見たクーリー(乗客の荷物をかついで運ぶ人)の姿を描く。強烈な色彩の共鳴と直線を多用した構成が、画面に力感を与えている。クーリーを見つめる画家の視点の近さに、たくましく生きる彼らへの共感が表れている。

伸びやかな色彩で愛児を描いた佳品 赤城泰舒 《ギターを弾く少年》

ギターを抱える少年は作者の愛息である。窓の外の木々や縞模様の布、ギターなどの鮮やかな色彩が効いている。不透明水彩と透明水彩を併用し、高度な水彩表現に達している。

山の空気をノスタルジックに描く 赤城泰舒 《雲(折原)》

寒さのまだ残る早春の空を描く。白い綿雲、青い空とともに、澄明な山の空気が巧みに表されている。本作は、疎開先の埼玉県折原で描かれた。

伊藤勉黄 《窓》

簡素な形態と魅力的な質感で無国籍都市上海を表現 伊藤勉黄 《上海の裏町》

上海の裏町を木版画ならではの質感で描いている。ざらついた壁の表現などは後の作品に見られる重厚さを予見させる。昭和14年(1939)、伊藤は従軍記者として上海へ渡航しているが、本作はその印象をもとに制作された作品である。

伊藤勉黄 《イシスとホルス》

鮮烈な朱。伊藤勉黄最晩年の輝く色彩。 伊藤勉黄 《風媒花》

作者ならではのざらついた質感と細かい線条を用いた表現が目をひく。さらに本作は、花と人物のモティーフや独特の鮮やかな朱色などの要素をも備え、伊藤晩年の境地を示す代表作の一つである。

わきたつような生命力 北川民次 《雑草の如くIII(裸婦)》

画面を二分割した構図の中に、明るい空の下でゆったりと横たわるふくよかな裸婦と、下層社会で苦しみあえぐ人々が描かれている。描き分けられた静と動、明と暗、美と醜との対比によって、わきたつような生命力が際だっている。

壁画を思わせる大画面 北川民次 《タスコの祭》

手前には、足を止め何かに見入っている女たちの一群。右奥には、演奏に夢中になっている楽隊や闘牛で遊ぶ男たち、その左奥には教会へと向かう人々の姿。青灰色が支配する壁画を意識した大画面のなかに、現実を忘れ、しばし祭りに興じるメキシコの民衆の姿が、独自の遠近法と濃い輪郭線をもつ描法で表現されている。

技法と作者の温かい視線が絶妙にかみ合った秀作 北川民次 《瀬戸十景(表紙)工場の一角》

1936年メキシコから帰国した民次は、瀬戸にある妻の実家に身を寄せ、やきもので有名なこの街で働く人々の日常風景を連作で描いた。本作は、作者が自ら手摺りした11点組みの版画集。版画の特性を生かした大胆で美しい刻線、明快な構図、白と黒の明暗表現が、働く人々に向ける民次の温かい視線と絶妙にかみ合った秀作である。

技法と作者の温かい視線が絶妙にかみ合った秀作 北川民次 《瀬戸十景(1)窯小屋》

1936年メキシコから帰国した民次は、瀬戸にある妻の実家に身を寄せ、やきもので有名なこの街で働く人々の日常風景を連作で描いた。本作は、作者が自ら手摺りした11点組みの版画集。版画の特性を生かした大胆で美しい刻線、明快な構図、白と黒の明暗表現が、働く人々に向ける民次の温かい視線と絶妙にかみ合った秀作である。

技法と作者の温かい視線が絶妙にかみ合った秀作 北川民次 《瀬戸十景(2)土堀り場》

1936年メキシコから帰国した民次は、瀬戸にある妻の実家に身を寄せ、やきもので有名なこの街で働く人々の日常風景を連作で描いた。本作は、作者が自ら手摺りした11点組みの版画集。版画の特性を生かした大胆で美しい刻線、明快な構図、白と黒の明暗表現が、働く人々に向ける民次の温かい視線と絶妙にかみ合った秀作である。

技法と作者の温かい視線が絶妙にかみ合った秀作 北川民次 《瀬戸十景(3)煙突のある風景》

1936年メキシコから帰国した民次は、瀬戸にある妻の実家に身を寄せ、やきもので有名なこの街で働く人々の日常風景を連作で描いた。本作は、作者が自ら手摺りした11点組みの版画集。版画の特性を生かした大胆で美しい刻線、明快な構図、白と黒の明暗表現が、働く人々に向ける民次の温かい視線と絶妙にかみ合った秀作である。

技法と作者の温かい視線が絶妙にかみ合った秀作 北川民次 《瀬戸十景(4)夜の工場》

1936年メキシコから帰国した民次は、瀬戸にある妻の実家に身を寄せ、やきもので有名なこの街で働く人々の日常風景を連作で描いた。本作は、作者が自ら手摺りした11点組みの版画集。版画の特性を生かした大胆で美しい刻線、明快な構図、白と黒の明暗表現が、働く人々に向ける民次の温かい視線と絶妙にかみ合った秀作である。

技法と作者の温かい視線が絶妙にかみ合った秀作 北川民次 《瀬戸十景(5)工場のなか》

1936年メキシコから帰国した民次は、瀬戸にある妻の実家に身を寄せ、やきもので有名なこの街で働く人々の日常風景を連作で描いた。本作は、作者が自ら手摺りした11点組みの版画集。版画の特性を生かした大胆で美しい刻線、明快な構図、白と黒の明暗表現が、働く人々に向ける民次の温かい視線と絶妙にかみ合った秀作である。

技法と作者の温かい視線が絶妙にかみ合った秀作 北川民次 《瀬戸十景(6)ろくろを回す男》

1936年メキシコから帰国した民次は、瀬戸にある妻の実家に身を寄せ、やきもので有名なこの街で働く人々の日常風景を連作で描いた。本作は、作者が自ら手摺りした11点組みの版画集。版画の特性を生かした大胆で美しい刻線、明快な構図、白と黒の明暗表現が、働く人々に向ける民次の温かい視線と絶妙にかみ合った秀作である。

技法と作者の温かい視線が絶妙にかみ合った秀作 北川民次 《瀬戸十景(7)山のなかの窯場》

1936年メキシコから帰国した民次は、瀬戸にある妻の実家に身を寄せ、やきもので有名なこの街で働く人々の日常風景を連作で描いた。本作は、作者が自ら手摺りした11点組みの版画集。版画の特性を生かした大胆で美しい刻線、明快な構図、白と黒の明暗表現が、働く人々に向ける民次の温かい視線と絶妙にかみ合った秀作である。

技法と作者の温かい視線が絶妙にかみ合った秀作 北川民次 《瀬戸十景(8)窯焼き》

1936年メキシコから帰国した民次は、瀬戸にある妻の実家に身を寄せ、やきもので有名なこの街で働く人々の日常風景を連作で描いた。本作は、作者が自ら手摺りした11点組みの版画集。版画の特性を生かした大胆で美しい刻線、明快な構図、白と黒の明暗表現が、働く人々に向ける民次の温かい視線と絶妙にかみ合った秀作である。

技法と作者の温かい視線が絶妙にかみ合った秀作 北川民次 《瀬戸十景(9)窯入れ》

1936年メキシコから帰国した民次は、瀬戸にある妻の実家に身を寄せ、やきもので有名なこの街で働く人々の日常風景を連作で描いた。本作は、作者が自ら手摺りした11点組みの版画集。版画の特性を生かした大胆で美しい刻線、明快な構図、白と黒の明暗表現が、働く人々に向ける民次の温かい視線と絶妙にかみ合った秀作である。

技法と作者の温かい視線が絶妙にかみ合った秀作 北川民次 《瀬戸十景(10)瀬戸市街》

1936年メキシコから帰国した民次は、瀬戸にある妻の実家に身を寄せ、やきもので有名なこの街で働く人々の日常風景を連作で描いた。本作は、作者が自ら手摺りした11点組みの版画集。版画の特性を生かした大胆で美しい刻線、明快な構図、白と黒の明暗表現が、働く人々に向ける民次の温かい視線と絶妙にかみ合った秀作である。

ターナーへの憧憬 栗原忠二 《セントポール》

画面全体がうねるような動感に満ちているが、気品も感じられる。英国を、とりわけターナーを愛した画家の格調の高さか。

そぞろ歩くロンドン 栗原忠二 《ロンドン郊外》

きつい遠近法的な空間だが、適所に散策する人々を配する。その服装の色は、屋根や街路樹の色と響き合う。栗原の絵では色彩がそぞろ歩くのだ。

突き進む道 柏木俊一 《道》

大地を切り開き、地平線の彼方へ。大正期、岸田劉生や白樺派の熱気に感化された若者の気概が伝わって来るようである。

ゆっくり進む道 柏木俊一 《海と畑と森》

画面左下から中央右へ道が横たわる。帰郷し、温暖な伊豆の風土の中で、画風も大らかに変わる。彼方には駿河湾、太平洋が広がる。

墨色の諧調に冴える鋭敏な感覚 近藤浩一路 《東山粟田口》

対象に即した自在な筆づかいにより、霧たつ京都東山の湿潤な風情を表す。微妙な墨の諧調の美しさには画家の光に対する鋭敏な感覚がうかがえる。小品の多い浩一路にしては例外的な大作だが、束縛のない自由な水墨表現が昇華されて、集中力ある画面を作り出した。

画家が感じた生のはかなさ 曽宮一念 《種子静物》

逆遠近法のテーブル上に置かれた枯れかけの向日葵の花と種子。曽宮は、この向日葵をみて、その萎れていく様子に強い興味を持ち、題材として描いた。茎の黄色とテーブルの白、背景の赤が強いコントラストをなしている。

鮮烈な赤は、スペイン精神を表す 曽宮一念 《スペインの野》

大地を彩る鮮烈な赤色。曽宮は、本作を制作する前年、スペインに旅行し、車中から見えた鮮明な赤色の大地をスケッチに描きとめた。大地の赤、空の青、建物の白が強いコントラストをなし、力強い描線が画面を引きしめている。

光を失った画家の絶筆 曽宮一念 《毛無連峯》

毛無山は、静岡県富士宮市と山梨県の境、天子山地の最高峰。鮮明な色彩と力強い描線によって描かれているが、本作を制作した翌年、曽宮は、光を失っている。本作は、目の病と闘い続け、日本の風景を独自の作風で描いた一人の画家の絶筆である。

漁師の家を独特の作風で描く 高畠達四郎 《漁師の家》

蔵のある漁師の家を紫灰色で厚く平塗りされた画面に大きく描く。全体を平面的に処理した画面に、人物を極度に矮小化してシルエットで描き出し、前景の家、船が作り出す小さな陰と呼応させることで、画面に奥行を生み出している。作者の手になる2年後の《伊豆須崎の家》によく似た民家が数軒見られることから、本作も同地で制作された可能性が高い。

爽やかな下田の風 高畠達四郎 《伊豆下田港》

現在の下田公園下から寝姿山を望む。鮮やかで澄明な空、深い輝きを放つ海、ざらざらとした山肌の寝姿山は、デフォルメされているが、豊かな色彩によって捉えられ、建物は山と一体となって造形化されている。港の潮のかおり、明るい日差しが観者に伝わってくるようである。

超高速は止まって見える? 菅井汲 《Masse Noire》

黒い円が移動しながら4つの痕跡を残したのだと想像してみよう。しかも、車のホイールのように、超高速で回転しながら動いたのだろうか。とするなら、この絵がもつエネルギーは、単純な見かけとは正反対に強大である。スポーツカーを乗りまわした作家でもあった。

ワッペンと似て非なるもの 磯辺行久 《WORK62-46》

羅列されたワッペンは、もはや本来の貴族の紋章のような重い意味をもったものではなく、大衆的なイメージの産物と化している。にもかかわらず、それは重厚な素材で、ひとつずつ手作りされ、彩色されている。記号と意味や物質との関係を問う現代美術の秀品。

絵画表現の可能性を問いつづける 依田寿久 《無題 No.3》

繊維の網目のような不規則な線が画面を覆い、モノクロームの色面に変化と統一を与えている。その静謐と動感をはらむマチエール(絵肌)は、この作家独自のものである。ミニマルアート以後の絵画の動向を示す好作例でもある。

作家と地域と住民と 川俣正 《袋井駅前プロジェクト1988》

歴史的建造物の解体にさいし、住民、行政、企業との対話や共同作業、解体資材による再構築などが行われた。その過程で、地域と人との関係が検証される。作家が社会の中で、多くの人たちと関わりながら制作する「プロジェクト」型作品は、この作家の真骨頂である。

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静岡県立美術館 学芸課
TEL. 054-263-5857

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