風景の交響楽

世界の動向と日本

越境者たち−海を渡った作家たち

20世紀前半に世界中を巻き込んだ二つの大戦を契機に、数多くの芸術家が新たな活動の場を求めて、故郷を離れ海を渡った。大戦間にヨーロッパで醸成されたモダンアートは、人の移動を介してアメリカや日本にも伝播し、異なる土地と風土のなかで独自の変容をみせ、各地で個性豊かな戦後の美術を花開かせた。時期を同じくして、女性の作家がめざましい活躍をみせ、時代や自らを取り囲む環境の変化に柔軟に対応しながら大胆な創作活動を行った。

色彩の相互作用 ジョゼフ・アルバース 《正方形頌》

大きさの異なる四つの正方形が、重なり合うように描かれている。左右は対称、上下は非対称に配置され、色どうしの相互作用によって画面に奥行きを感じさせる。アルバースは形を極限までシンプルにして、純粋に色彩の視覚的、心理的効果を追求した。生み出された1000点にもおよぶシリーズは、教育の現場で実践的な資料として用いられた。

50年間の集大成 ジョゼフ・アルバース 《形成:連接》

アルバースが初期から晩年までに生み出した127作品を、分類し記録して後世に残す目的で、晩年作家自身が制作したポートフォリオ。各作品に本人による詳細な解説がつけられており、作家の思想と制作の全貌を体系的に知ることができる。

「幽玄」→ユーゲニズム 岡田謙三 《時》

「時」という観念的なテーマ、流水を思わせる曲線、穏やかな色面と、相互に浸透する画面構成。作者は、日本的な「幽玄」を、大画面の抽象表現で視覚化することに取り組んだ。「幽玄」はユーゲニズムとなって、美術の歴史に記された。

線と余白が生み出す緊張感 李禹煥 《線より》

キャンヴァスの輪郭にそって、スピード感と意志を持った四本の線が描かれている。真っ白い画面に描きいれられた線によって、キャンヴァスの四角い空間には余白が生じ、この余白と線とが互いに呼応して、緊張感のある関係性を生み出している。

父親殺しの神話に基づく、凶暴で悲しい彫刻 イサム・ノグチ 《クロノス》

クロノスは、ギリシャ神話に登場する時の神である。父を殺し、我が子に殺された。この彫刻の制作年はノグチの父が逝去した年。吊り下げられた部分は、骨か、凶器か、涙か。あるいは神話的な悠久の「時」を示す時計の振り子であろうか。

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静岡県立美術館 学芸課
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