木賊と兎という定番の取り合わせだが、ふわふわとした毛に覆われた柔らかそうな兎は、触れることすら出来そうな迫真性を備える。どれだけ近接して眺めても質感表現のための細密な描写には限りが無く、近付くほどに本物の兎毛を見、本物の木賊を見ているような気にさせられる。三羽の配置、兎と木賊の位置関係などにも明快で合理的な三次元的空間意識が見られ、現実感を増す。一方、広く取られた余白や、どこまでも端正に整えられ、作り込まれた構図は、絵画としての洗練を極める。
応挙54歳、《雪松図屏風》(国宝三井記念美術館)などの代表作を生んだ画業高揚期における可憐な一作。満を持して卯年の年頭にご紹介した。
(当館主任学芸員 石上充代)
円山応挙
《木賊兎図》 1786(天明6)年
絹本着色 104.5×42.0cm