南仏の田園風景を油彩で描く。マッチ箱のように単純化された建物を後景に控え、観る者へ向かうように畑が開けてくる。どうやら画面手前へとなだらかに下る斜面であるらしい。建物も樹木も品の良い中間色にまとめられ、空の面積が少ない割に圧迫感は感じられない。素朴な印象さえ与えるなめらかな色面は、淡々として静かな雰囲気を印象づける。郊外の穏やかな日常を写し取った穏健な画面であると同時に、どこか白昼夢めいた非日常の緊張をはらんでもいる。
作者の長谷川潔は横浜生まれ。第一次大戦後に渡仏し、終世フランスで活動した。19世紀に写真の出現によってすたれてしまった銅版画技法「マニエル・ノワール(メゾチント)」を近代的表現で復活させ、銅版画家としての地歩を確立した。
※収蔵品展「クレーの時代の日本洋画」(7月7日〜9月6日)に出品されます。
長谷川潔
《南仏風景》 1920-30年代(大正末−昭和初期)
キャンヴァス、油彩 54.0×65.0cm