アマリリス Amaryllis

2011年 夏 No.102

 ラテン語で「逃れ去る愛」を意味する《フギット・アモール》は、元々《地獄の門》のために構想された。うつ伏せの女性の背中に、仰向けの男性がずれ落ちるように重なり合った独自のポーズは、恐らく愛のために破滅した男女を表し、その行く手には永遠の地獄の旅路が待ち受けている。
 一般的に、ブロンズの彫刻家として知られるロダンだが、数多くの大理石作品も手がけた。白い石のもつ透明性は、特に女性像の肌の質感表現に適しており、本作では完全に彫り込まれた人物像の滑らかさと、粗彫りのままにした台石とのコントラストが際立つ。
 《フギット・アモール》はロダンお気に入りの主題で、大理石では本作を含む4体のヴァージョンが存在する。中でも当館の所蔵作は、1900年にパリのアルマ広場で開催されたロダンの大回顧展に出品された歴史的な1点である。
(当館上席学芸員 南 美幸)

フランソワ・ブーシェ 《石橋のある風景》の画像
オーギュスト・ロダン
《フギット・アモール》
1895年以前
大理石
55×87.6×56cm

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