画面全体に充満する、うねり燃え立つような躍動感にまず圧倒される。ついで遠景にそびえるドームが目に入って来る。セントポール大聖堂である。天を衝くドームの背後には白雲が沸き上がり、画面に一層の動勢を与えている。前景に目を転じれば、大きな二艘の船がテムズ川に碇泊し、荷物の積み下ろしの真っ最中である。橙色の帆の与える鮮烈な印象も見逃せない。青空、白雲、聖堂、川、船、労働者がまさに渾然一体となり、エネルギッシュな世界をかたちづくる。
作者栗原忠二は三島市出身の画家。ターナーへの強い憧れを胸に渡英してブラングィンに師事、英国王立美術家協会の準会員となった。帰国後は白日会の結成に参加、英国の画風を日本に伝える役割を果たした。
(当館学芸員 村上 敬)
※収蔵品展 「イギリスゆかりの日本洋画」(平成20年9月9日(火)〜10月26日(日))に出品
栗原忠二(くりはらちゅうじ) 1886-1936(明治19-昭和11)
《セントポール》 1916頃(大正5頃)
キャンヴァス、油彩 80.0 x 100.0 cm
当館蔵(昭和56年度 購入)