合板に、ペインティングナイフで絵具を塗り重ねてつくりあげた豊穣な色面。多いときは8回も重ねられたという層は、重厚で触覚的だ。画面全体に広がる黄土色は、大陸の土の色であるという。板目や木のふしに即して線をひき、形をつくり、絵具の層から声が聞こえるまで塗り続ける。ものに直接触れ、ものから習っていくという姿勢は、生まれ育ったソウル(京城)の大地で10年以上、土に触れ経験した農作業にも通じる。
東京美術学校の学生の頃から細部の描写でなく、「もの」の総体をとらえることに関心を持っていた。20才代半ばでのフランスにおける佐伯祐三や画家仲間との交流は、自らの資質を確認させ、現象を越えた内実の世界の探求へ向かわせるきっかけとなった。
山口長男(たけお)
《脈(みゃく)》 1968年(昭和43年)
油彩、合板 182.2×182.2cm
当館蔵(昭和57年度購入)