風景の交響楽

個性おどる作品たち

日本

吉祥イメージに満ちた華麗な異世界 伊藤若冲 《樹花鳥獣図屏風》

身近な生き物から霊獣(麒麟、鳳凰など)まで、獣尽くし・鳥尽くしの華麗な世界が、前代未聞の描法によって繰り広げられる。若冲独創のモザイク風描法、いわゆる〈枡目描き〉による作品は、本作の他2点が知られている。

精緻な鶉に託された和歌イメージ 土佐光起 《秋草鶉図》

鶉の羽の規則的な模様、モチーフと余白の見事な調和、秋草の写実味など、見どころ満載。中世以来和歌に詠まれた鶉の姿には「ひっそりと待つ女」のイメージも重ねられており、重層的な鑑賞を促す。「鶉図を巧みに描いた」という光起の伝記を裏づける作品。

ふわふわ感とざらざら感、触覚対比の妙 円山応挙 《木賊兎図》

繊細な毛描きをほどこした可憐なうさぎさん。緑色の上に極細の墨線で筋目と節を表わした木賊。柔らかさと硬さ、ふわふわ感とざらざら感、丸みと垂直の鋭さ、そうした質感や形態の対比が見事。抜群の描写力と気品、応挙の写生の魅力を最もよくしめす作品だ。

流し目にドキっ!仮装の美人画 長沢蘆雪 《大原女》

切れ長の目、長いまつげ、ほつれ髪。妖艶なまでの色香からみて、洛北の里から京都市中で薪などを売り歩いた大原女、というより、特定の美女をその姿に仮装させた艶かしい美人画とみたい。款記「応需」(需めに応ず)は、誰かからのそうした注文を暗示する注記ととれる。

見逃してはならないマクロ(孔雀)からミクロ(蟻)まで。 長沢蘆雪 《牡丹孔雀図》

孔雀の羽根のかすれた墨線、意識的に変形させた玉模様、水墨のにじみが生々しい岩など、蘆雪ならではの形態感覚、運動感覚が随所にみられる。空中に紋白蝶、目をこらせば、牡丹の花弁や地面に、米粒大で蟻や蜘蛛まで描きこんでいる。すみずみまで見逃したくない。

ローマで初披露された自信作 松岡映丘 《今昔ものがたり 伊勢図》

高名な歌人・伊勢のもとに、詠進を求める帝の使者として藤原伊衡が訪れた場面。鮮麗な色彩や細密描写、理知的な構図によって、住まいの雅趣や人物の優美さを見事に描き出す。細緻華麗な歴史人物画を得意とする映丘の力量が存分に発揮された作品。

何気ない静物の中にさすがの風格 小出楢重 《静物》

画面にテーブルを広くとり、いくつかの静物を組み合わせる。背景には装飾的な壁紙を廻し、強い色で本作を引き締める。考え抜かれた構図とともに確かな技量を見せつける。

清水の次郎長、ニューヨークに殴りこみ! 篠原有司男 《次郎長バー》

次郎長が刀片手にジョッキをあおる。窓から怪物が乱入し、マンガのキャラクターが蠢く。ニューヨークの雑踏の中、ダンボールや空き瓶などの日用品が美術作品の材料となる。猥雑な大衆社会が生むエネルギーは、理屈抜きに豪快だ。

増殖する水玉模様 草間彌生 《最後の晩餐》

テーブルと椅子を埋め尽くす色鮮やかな突起物。この詰め物をした布製の柔らかな突起物を作家自身はファルス(男性器)であるという。性に対する恐怖感を取り除く自己療法として生み出される造作物に、〈無題〉(No.214)の大画面にあらわれたドット(水玉模様)がここでも増殖をみせる。

名画って何? 森村泰昌 《批評とその愛人(1)〜(7)》

セザンヌの静物画とそっくりな模型を作り、様々な角度から撮影した写真を組み合わせる。しかもそこには、作者自身の顔も混入してくる。こうした試みは、我々に名画とは何か、名画を見るとはどういうことなのかと、改めて問いかけてくる。

見て、叩け! 金沢健一 《音のかけら 2》

《音のかけら》シリーズの最初期作のひとつ。鉄板を様々な形に熔断し、ゴムの足をつけて並べる仕掛け。叩くと音がなるが、叩き方、叩く物によって、無尽の音色を取り出すことができる。鑑賞者が積極的に関与することによって表現が成立する、参加体験型の秀品。

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