風景の交響楽

世界の動向と日本

「現代美術」−戦後美術

20世紀前半に世界中を巻き込んだ二つの大戦を契機に、数多くの芸術家が新たな活動の場を求めて、故郷を離れ海を渡った。大戦間にヨーロッパで醸成されたモダンアートは、人の移動を介してアメリカや日本にも伝播し、異なる土地と風土のなかで独自の変容をみせ、各地で個性豊かな戦後の美術を花開かせた。時期を同じくして、女性の作家がめざましい活躍をみせ、時代や自らを取り囲む環境の変化に柔軟に対応しながら大胆な創作活動を行った。

ドリルで生み出された絵画の奥行き 斎藤義重 《作品2》

ドリルで線や面状の凹凸をつけた合板の表面に、明快な赤を基調とする油絵具で彩色をしたもの。板の表面に残るドリルの痕跡によって、筆で描かれた幻影ではなく、現実空間に文字どおり奥行きを出現させている。戦後、平面作品から制作を再開した斎藤の作風が、次第に脱平面化へと向かっていく転換期の頃の作品である。

純粋に視覚的であれ 元永定正 《作品》

色鮮やかな樹脂系の絵の具を、大胆にキャンヴァスに流し込んだ流動感あふれる画面。時に混じりあい、時に反発してできた絵の具の有機的な形は、一見、偶然性を装いながらも、面白い形ができるように、デッサンで構想を練ってつくられている。タイトルは、言葉によって特定のイメージが喚起されないようにとつけられたもの。純粋に視覚的であることが重要だったのである。

足で描く 白髪一雄 《屋島》

キャンヴァスを床に寝かせ、天井から吊り下げたロープにつかまって、足の裏で描いた作品。キャンヴァスの上に塊で落とした絵の具と格闘するうちに、勢い余って滑る事もあったという。文字どおり身体を張って挑んだ行為の痕跡であるこの絵画は、見るものの触覚や身体を刺激する。

リーダーのプライド 吉原治良 《work》

激しいタッチで塗りつけられた絵の具のほとばしりと、書を思わせる大胆な黒い線。物質と精神のせめぎあいは、絵画芸術の永遠のテーマでもある。若手作家達の模範でもあらねばならなかった時期、苦闘しつつも、絵画の本質をせめつづけた作品である。

極小の世界に、大宇宙の広がりを見る 難波田龍起 《ミクロの世界》

当時の抽象絵画運動(アンフォルメル絵画)の影響も見られるが、作者特有の詩情を感じ取ることもできる。顕微鏡でのぞき見る生命誕生の息吹か、あるいは、望遠鏡で見る大宇宙の星の誕生か。難波田は、抽象絵画を詩情豊かな領域へ進めたのである。

「現代美術」を問う現代美術作品 吉仲太造 《現代美術》

張り込まれた新聞の株式欄の上に、綿布団に寝かせられた釘たち。バブル崩壊後の今日にあっても株で躍る者と物は絶えない。そのシニカルな予言であったか。だが同時に造形的な美しさと強さをあわせもつ。だからこそ、優れた自己批評たりえているのだ。

錯覚が知覚を問う 高松次郎 《布の弛み》

四辺はまっすぐなのに、中央が盛り上がっている。ヘンだ。つまりこれは、広げられた布は四角形で平であるはずという通念を逆手に取ったトリッキーな表現なのである。錯覚や思い込みを利用して、我々の知覚や認識のあり方を問う、この時期の高松作品の典型例である。

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