風景の交響楽

世界の動向と日本

女性の作家たち

20世紀前半に世界中を巻き込んだ二つの大戦を契機に、数多くの芸術家が新たな活動の場を求めて、故郷を離れ海を渡った。大戦間にヨーロッパで醸成されたモダンアートは、人の移動を介してアメリカや日本にも伝播し、異なる土地と風土のなかで独自の変容をみせ、各地で個性豊かな戦後の美術を花開かせた。時期を同じくして、女性の作家がめざましい活躍をみせ、時代や自らを取り囲む環境の変化に柔軟に対応しながら大胆な創作活動を行った。

20歳代後半の意欲作 ジョアン・ミッチェル 《湖》

深い青を基調として赤、緑、黄、黒、白の激しいストロークが画面中央に集積し、その上下を、白が支配する区画が取り囲んでいる。学生時代からの印象派の色や構図の研究成果と、ニューヨークで吸収した、抽象表現主義の表出性を消化し、みごとに結合させている。色彩と線と構図によって、いかにリアルな空間を作り上げることができるかを理知的に試みた20歳代後半の意欲作である。

モノトーンが生む微細なコントラスト 宮脇愛子 《作品12》

1990年代半ばに再発見された初期絵画のうちの1点。画面右4分の1は平滑な面で区画され、残る左側に手あとが残る有機的な形体が反復する。大理石の粉を混ぜた油絵の具の薄い厚みにより、彫塑的な表情を帯びた表面は、モノトーンのなかに光と陰の微細なコントラストを生み、複雑な表情をたたえている。

風通しのいい彫刻 宮脇愛子 《作品》

真鍮でできた角柱パイプを積み重ねた、格子状の構造物。一見無愛想な立体物に見えるが、ひとつひとつのパイプは固定されておらず前後に出し入れができる自由さを備えている。文字どおり風通しのよいこの彫刻は、自己完結することなく、パイプごしに見る風景や、ふりそそぐ光の変化によって見え方を柔軟に変える。

増殖する網 草間彌生 《無題(No. White A.Z.)》

遠くからは何も描かれていないモノトーンの壁のようにみえるが、近くに寄ると、灰色に地塗りされたキャンヴァスの表面を、白い触知的な網目状の描きこみがみっしりと覆っている。アメリカに渡る以前のデッサンや水彩画の中にも見られる独特の網やドット(水玉模様)が、ニューヨークで抽象表現主義の大画面と出会い、拡張し、増殖した。初期を代表する1点。

無機質な画面に潜む情熱 田中敦子 《1985A》

幾重にも絡まりあう、無数の線と円。強烈な色彩の乱舞。生涯変わることなく貫かれたこの基本スタイルは、色鮮やかな電球とコードによる衝撃的な《電気服》に端を発している。

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静岡県立美術館 学芸課
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