館長あいさつ

ごあいさつ

 半年に及んだ工事休館を経て、美術館が活動を開始しました。単なる再開というよりは、再出発という意味合いが強いかもしれません。3年目に入ったコロナ禍を経験し、美術館はそのあり方に見直しを求められているからです。とりわけ一昨年は、臨時休館や他県からの来館をお断りするなど、公開施設である美術館にとって、あってはならない事態が出現しました。美術館は美術作品を展示公開し、みなさまはそれを見るために足を運んでくださるという関係を前提にして、活動を展開してきました。この軌道を修正せざるを得ません。美術館に出かけなくても体験できる美術館を新たに展開する、これが「再出発」の意味です。

 静岡県立美術館は県議会100周年を記念して1986年に開館しました。それから早くも36年が過ぎたといえるし、まだ36年しか経っていないともいえます。日本の公立美術館としては平均的な年齢だと思いますが、世界の美術館と比べれば、ようやく自分の足で歩き始めたころかもしれません。2026年に迎える開館40周年に向けて5カ年計画を策定し、公表しました。

 美術館と聞けば、まずはその建物の姿を思い浮かべますね。しかし、それはいつの日か朽ち果てる。いや、そうなる前に更新されるでしょう。美術館とは、むしろその建物の内部に集積した作品群、すなわちコレクションを指し、それが美術館なのだと思います。開館以来、当館は2,700点を越える美術作品を収集してきました。「東西の山水・風景画」、「富士山の絵画」、「ロダンと近代彫刻」、「現代の美術」、「静岡県ゆかりの作家、作品」をコレクションの柱にしています。これらが美術館の血となり肉となってきました。一般にはこれを「特色」と呼ぶわけですが、むしろ「体質」と呼びたくなるほどに、コレクションは美術館の根幹です。

 「東西の山水・風景画」の収集範囲を17世紀初頭にまで広げたことで、前近代の美術を振り返ることのできる当館の「体質」は際立っています。近現代美術を中心にコレクションを築いてきた多くの公立美術館とは一味違う。わたしたちとは別の時代、別の世界を生きたひとびとが、それぞれの美の基準にしたがって作り出したものを通して、それらを作り出した人間の面白さ、楽しさ、恐ろしさ、底知れなさにふれる。過去を知り、ひるがえって、わたしたちが生きる現代を知る。これが美術館の醍醐味のひとつではないかと私は考えます。

 当館は有度山と呼ばれるなだらかな丘陵の中腹にあり、桜、欅、金木犀などの豊かな樹々に囲まれています。美術館につづく坂道からは、いかにも静岡らしい穏やかな山々の連なりが見え、富士山を拝むこともできます。そんな風景を眺めながら、ご覧になったばかりの展覧会を振り返るのも、当館を訪れる楽しみのひとつではないでしょうか。丘を下る時には、風景が違って見える、そんな展覧会をみなさまに提供したいと思います。

館長 木下直之

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